大分遺産分割協議書

最高裁判所第三小法廷

民法826条所定の利益相反する行為にあたるか否かは、

当該行為の外形で決すべきであつて、

親権者の意図やその行為の実質的な効果を問題とすべきでは

ないので(最高裁昭和34年(オ)第1128号同37年10月2日

第三小法廷判決・民集16巻10号2059頁、

同昭和41年(オ)第79号同42年4月25日第三小法廷判決・

裁判集民事87号253頁参照。)、親権者が共同相続人である

数人の子を代理して遺産分割の協議をすることは、

かりに親権者において数人の子のいずれに対しても衡平を欠く意図が

なく、親権者の代理行為の結果数人の子の間に利害の対立が

現実化されていなかつたとしても、

同条二項所定の利益相反する行為にあたるから、親権者が共同相続人

である数人の子を代理してした遺産分割の協議は、

追認のないかぎり無効であると解すべきである。

原審確定の事実によれば、本件遺産分割の協議は、共同相続人である

被上告人両名に対し親権を有する母であるDが被上告人両名の

法定代理人として上告人との間でしたものであるから、

右遺産分割の協議は無効であるとした原審の判断は、正当である。

利益相反行為
第826条  親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為

については、親権を行う者は、その子のために特別代理人

選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、

その一人と他の子との利益が相反する行為については、

親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを

家庭裁判所に請求しなければならない。


昭和49年07月22日 最高裁判所第一小法廷

原審の確定したところによれば、訴外Dの死亡により、

その長男被上告人B、三男上告人A1、四男上告人A2、

五男上告人A3、二女上告人A4並びに二男亡Eの代襲相続人である

上告人A5、上告人A6及び上告人A7のため

相続が開始したところ、昭和28年7月ごろ、当時未成年者であつた

上告人A6及び上告人A7の親権者である訴外Fと右両名を除く

その余の相続人らとの間に、亡Dの遺産を

全部被上告人Bに取得させる旨の遺産分割の協議が成立した、

というのである。

以上のような事実関係のもとにおいて、原判決は、上告人A6及び

上告人A7は本件遺産分割の協議により何も財産を取得しないので

あるから、本件協議についてはその間で利益が相反することはなく、

訴外Fが右上告人両名の親権者として両名を代理して右協議に

加わつても、民法826条二項に違反して本件遺産分割の協議が無効

となることはないものと判示している。
 
しかしながら、民法826条二項所定の利益相反行為とは、

行為の客観的性質上数人の子ら相互間に利害の対立を生ずるおそれの

あるものを指称するのであつて、その行為の結果現実に

その子らの間に利害の対立を生ずるか否かは問わないものと

解すべきであるところ、遺産分割の協議は、その行為の客観的性質上

相続人相互間に利害の対立を生ずるおそれのある行為と

認められるから、前記条項の適用上は、利益相反行為に該当するもの

といわなければならない。

したがつて、共同相続人中の数人の未成年者が、相続権を有しない

一人の親権者の親権に服するときは、右未成年者らのうち

当該親権者によつて代理される一人の者を除く

その余の未成年者については、各別に選任された特別代理人

その各人を代理して遺産分割の協議に加わることを要するので

あつて、もし一人の親権者が数人の未成年者の法定代理人として

代理行為をしたときは、被代理人全員につき前記条項に

違反するものというべきであり、かかる代理行為によつて成立した

遺産分割の協議は、被代理人全員による追認がないかぎり、

無効であるといわなければならない(最高裁昭和47年(オ)

第603号同48年4月24日第三小法廷判決・

裁判集民事109号183頁参照)。
 
してみると、訴外Fが上告人A6及び上告人A7両人の親権者として

加わつて成立した本件遺産分割の協議は、右上告人らによる

追認がないかぎり、無効と解すべきところ、その追認の事実を

確定することなく右の協議を有効とした原判決には、

民法826条二項の解釈適用を誤つた違法があり、

その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

論旨はこの点において理由があるから、原判決は破棄を免れず、

更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのを相当とする。