最判昭和43年8月20日

民法565条(解釈)

上告代理人岩本健一郎の上告理由第一点について。

民法565条にいう「数量ヲ指示シテ売買」とは、当事者において

目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積、容積、

重量、員数または尺度あることを売主が契約において表示し、かつ、

この数量を基礎として代金額が定められた売買を指称するもので

ある。

ところで、土地の売買において目的物を特定表示するのに、

登記簿に記載してある字地番地目および坪数をもつてすることが

通例であるが、登記簿記載の坪数は必ずしも実測の坪数と一致するもの
ではないから、売買契約において目的たる土地を登記簿記載の坪数を
もつて表示したとしても、これでもつて直ちに売主がその坪数のある
ことを表示したものというべきではない。

ところで、原審が本件売買を数量指示売買と認定判断するについて

挙げた証拠方法は、甲第六号証(不動産売渡代金領収書)、

第一、二審の被上告人本人尋問の各結果、第二審の上告人A本人尋問の

結果および弁論の全趣旨であるが、右甲第六号証には、売買の目的物

として、「長崎市a町b番のc宅地八六坪五合(原判決もこのように

認定しているが、成立に争ない甲第七号証((登記簿謄本))に

よれば、長崎市a町b番のcは宅地八六坪五勺とある)、

同上b番のd宅地七坪四合、同市同町b番のc建設家屋番号同町第e番

木造瓦葺平家建居宅一棟建坪二五坪、塀・井戸・畳・建具

其他付属定着物・従物等一切有姿の儘」、

その売買代金額として「145万円」と記載されているのみであり、

その他の前記証拠方法には、本件売買の目的物のうちb番のc宅地

八六坪五合(登記の記載上は正しくは八六坪五勺)、

同番のd宅地七坪四合は、「買主たる控訴人(被上告人)においては

もちろん、そのとおりの実測面積があるものと信じ、また売主たる

被控訴人(上告人)ら側においても、売買の目的たる本件宅地の

実測面積は登記簿表示の坪数より少なくないことを認め、当事者双方

ともこれを基礎として代金額を定めたものである」との証拠はない。

そして、第一審裁判所のした検証の結果には、本件売買の目的である

土地は周囲を石垣等で囲まれているとある。

そこで、右かつこ部分を除くその他の原審の確定した事実を冒頭の説示

に照らして判断すれば、本件売買は、いまだいわゆる数量指示売買に

あたるものとはいえず、これを数量指示売買と判断したことは、

証拠に基づかないで事実を認定したか、民法565条の解釈適用を

誤つたものというべく、これが判決に影響を及ぼすことは

明らかである。

よつて、論旨は理由あり、上告理由中その他の点についての判断を

省略し、本件について更に審理を尽くさせるため、事件を原審に

差し戻すべきものとし、民訴法407条1項に従い、

裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第三小法廷

これに対して,

最判昭和57年1月21日は、上告代理人橋本和夫の上告理由について

土地の売買契約において、売買の対象である土地の面積が表示された

場合でも、その表示が代金額決定の基礎としてされたにとどまり

売買契約の目的を達成するうえで特段の意味を有するものでないとき

は、売主は、当該土地が表示どおりの面積を有したとすれば

買主が得たであろう利益について、

その損害を賠償すべき責めを負わないものと解するのが相当である。

しかるところ、原審の適法に確定したところによれば、本件の各土地の
売買において売主である被上告人の代理人が目的土地の面積を

表示し、かつ、この面積を基礎として代金額を定めたというので

あるが、さらに進んで右の面積の表示が前記の特段の意味を有するもの
であつたことについては、上告人らはなんら主張、立証していない。
そうすると、不足する面積の土地について売買が履行されたとすれば

上告人らが得たであろう利益として、右土地の値上がりによる利益に

ついての損害賠償を求める上告人らの請求を理由がないものとした

原審の判断は、結局正当として肯認することができ、

原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、

裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。