よく間違える自首 刑法編
自首は「西洋の法制には見られない
東洋特有の刑法的伝統である。
佐伯千仭 四訂刑法講義(総論)引用」
(自首等)
第42条 罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、
その刑を減軽することができる。
2 告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、
告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、
その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。
刑法を勉強したことのない人にとって、
よく間違われるのがこの「自首」である。
例えば,新聞報道で指名手配の者が自首したと
報じられることがあるが
刑法上の「自首」ではない。
刑法上の「自首」の要件
1 捜査機関に発覚する前
2 自首したとき
である。
つまり、「発覚しない」というのは、捜査機関に犯罪そのものが
知られていない場合だけでなく、
事件の起こったことは知っているが、
犯人がどこの誰であるか分っていない場合でもよい。
「自首」の否定例 最判昭和24・5・14刑集3・6・721
理 由
被告人A弁護人津川友一の上告趣意について。
刑法第42条第1項の「未タ官に発覚セサル前」とは
犯罪の事実が全く官に発覚しない場合は勿論
犯罪の事実は発覚していても犯人の何人たるかが
発覚していない場合をも包含するのであるが
犯罪事実及び犯人の何人なるかが官に判明しているが
犯人の所在だけが判明しない場合を包含しないものと解すべきである。
本件において原審の確定したところによると
被告人は本件犯行の翌々日即ち昭和21年5月10日B某
をたのんで共に高田警察署に出頭した形跡はあるがそれより
前既に司法警察官に本件犯行及び犯人が被告人等なることが
発覚していたというのであるから
原審が被告人の自首を認めなかつたのは正当で論旨は理由がない。
被告人C弁護人下瀬芳太郎の上告趣意について。
しかし原審は本件犯行当時被告人は心神耗弱者であつたという
弁護人の主張に対し鑑定を命ずる等充分な考慮を払つたことが
窺えるのである、ところが原審は鑑定人Dの鑑定の結果のみに
よつては未だ之を肯定するに充分でなく又他に之を認むるに
足る証拠がなく却つて被告人は中学校を卒業して専門学校の
二年に在学し特に体操武道に優秀なること
その他被告人の原審公廷における言動、第一審公判調書及び予審判事の
訊問調書の各記載によつて認められる被告人の本件犯行当時の言動等に
よつて被告人は本件犯行当時心神耗弱者でないと認定したものであつて
原審の右判断は毫も所論の如き採証の法則に違反した違法があると
言うことはできない、論旨は理由がない。
よつて刑訴施行法第2条旧刑訴第446条によつて主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見である。
検察官 岡本梅次郎関与
昭和二四年五月一四日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 霜 山 精 一
裁判官 栗 山 茂
裁判官 小 谷 勝 重
裁判官 藤 田 八 郎