営業許可処分取消等請求控訴事件

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
4条2項2号
公安委員会は、前条第一項の許可の申請に係る営業所につき次の各号のいずれかに該当する事由があるときは、許可をしてはならない。
二 営業所が、良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるとき。

風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律施行令
第六条 法第四条第二項第二号 の政令で定める基準は、次のとおりとする。
ロ その他の地域のうち、学校その他の施設で学生等のその利用者の構成その他のその特性にかんがみ特にその周辺における良好な風俗環境を保全する必要がある施設として都道府県の条例で定めるものの周辺の地域
二 前号ロに掲げる地域内の地域につき制限地域の指定を行う場合には、当該施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲おおむね百メートルの区域を限度とし、その区域内の地域につき指定を行うこ


平成25年8月30日判決言渡 平成25年(行コ)第1号 営業許可処分取消等請求控訴事件

第2 事案の概要
1 本件は,大阪府交野市α所在のぱちんこ屋「F店」(以下「本件店舗」という。)に関し,同店の経営主体であるG株式会社が大阪府公安委員会から風俗営業法に基づく営業許可を受けたこと(以下「本件営業許可処分」という。)について,本件店舗の近隣に居住し,又は本件店舗の周辺に存するH小学校に通学中の児童の保護者である被控訴人らが,本件店舗は,その所在地が大阪府風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例2条1項2号の距離制限規定に違反しているから,本件営業許可処分は無効である等と主張して,控訴人に対しその取消を請求する事案である。原審は,被控訴人らの請求を認容した。控訴人は,この判断を不服として控訴した。なお,原審では,被控訴人らの他にIら3名が相原告として本件営業許可処分の取消請求をしていたが,原判決で請求を棄却されて確定した。また,上記Iら3名及び被控訴人らは,原審において,本件営業許可処分の取消請求のほか,本件店舗の建築確認申請に関する建築計画変更確認処分の無効確認請求も併合提起していたが,原審で訴えを却下され,確定した。

2 法令等の定め
本件に関係する法令等の定めについては,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」中,第2の1のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決5頁8行目「幼児,児童や生徒等」を「幼児,児童,生徒等」と改める。(2) 原判決5頁10行目「診療所の敷地」を「診療所(患者を入院させるための施設を有するものに限る。)の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)」と改める。(3) 原判決5頁15〜16行目「教育施設等」を「距離制限対象施設」と改める。(4) 原判決5頁16行目末尾に改行して以下のとおり加える「医療法1条の5第1項に規定する「病院」とは,医師又は歯科医師が,公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であって,20人以上の患者を入院させるための施設を有するものをいい,同第2項に規定する「診療所」とは,医師又は歯科医師が,公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であって,患者を入院させるための施設を有しないもの又は19人以下の患者を入院させるための施設を有するものをいうとされている。」
3 前提事実(争いのない事実及び後掲各証拠により認められる事実)
(1) 本件店舗と関連施設の状況
本件店舗は,大阪府交野市α×番地4所在の6階建マンション「J」(以下「本件建物」という。)の1階の一部に存在する。本件建物の1階の状況は別紙1の営業所平面図記載のとおりであって,本件建物の中央部分に本件店舗が存する。本件建物東南側,同平面図①の位置に「福祉事務所」と記載された部分には,本件店舗で発行する特殊景品を買い取る景品交換所(以下「本件景品交換所」という。)が存する。本件建物東南角,同平面図②の位置に「福祉用防犯カメラ」と記載された部分には,防犯カメラ(以下「本件防犯カメラ」という。)が設置されている(甲47)。本件店舗は,従業員用更衣室(以下「本件更衣室」という。)を,本件建物の東側に約30メートルの距離に存する「K」(別紙4の本件建物周辺拡大図③の位置)の一室に設けている。本件店舗は,来店者用の駐車場として,本件建物の南側に隣接する幅員4メートルの府道β線(以下「本件道路」という。)をはさんだ東南側(同拡大図④に「L駐車場」と記載された場所)に,専用駐車場(以下「本件駐車場」という。)を設置している。
(2) 本件建物周辺の学校と(1)の施設等との位置関係交野市立H小学校(以下「H小学校」という。)は,本件建物の東方,別紙2の付近見取図⑤の位置に「市立H小学校」と記載された部分に存する。H小学校の敷地と本件建物の位置関係は別紙3の現況実測平面図のとおりであり,H小学校の敷地西北角(ポイント40)から100メートルの点を結んで円弧を描くと,別紙3の詳細図記載のとおり,本件景品交換所の一部はH小学校から100メートル以内の範囲に入るが,本件店舗本体は同範囲に入らない。同様に,H小学校の敷地西角(ポイント46)から100メートルの点を結んで円弧を描くと,本件景品交換所はほぼその全体が100メートルの範囲内となるが,本件店舗本体は同範囲に入らない。本件駐車場及び本件更衣室はいずれもH小学校敷地角から100メートルの範囲内にある。
(3) 被控訴人らの自宅と本件店舗の位置関係(甲55)被控訴人B,同C,同D及び同Eの自宅は,本件店舗の近隣に存し,本件建物を含め,いずれも都市計画法上の近隣商業地域に属する。その位置は,別紙4の本件建物周辺拡大図記載のとおりであり,同拡大図記載アの建物が被控訴人B,イが被控訴人C,ウが被控訴人D,エが被控訴人Eの自宅である。上記被控訴人らの自宅から本件建物の敷地までの距離は,被控訴人Bが19.5メートル,被控訴人Cが12メートル,被控訴人Dが4.8メートル,被控訴人Eが1.54メートルである。被控訴人Aの自宅と本件店舗は数百メートル離れている。
(4) 被控訴人らの子女の通学状況(甲55,56,58,60,61,63,86,弁論の全趣旨)
被控訴人らの自宅は,いずれもH小学校の学区内にある。
ア 被控訴人Bには,長女(平成▲年▲月▲日生)と二女(平成▲年▲月▲日)があり,長女はH小学校に通っている。
イ 被控訴人Cには,長女(平成▲年▲月▲日生)と二女(平成▲年▲月▲日生)があり,長女はH小学校に通っている。
ウ 被控訴人Dには,長女(平成▲年▲月▲日生)と長男(平成▲年▲月▲日生)があり,長男はH小学校に通っている。
エ 被控訴人Eには,長女(平成▲年▲月▲日生)と長男(平成▲年▲月▲日生)があり,長女及び長男はH小学校に通っている。
オ 被控訴人Aには,長女(平成▲年▲月▲日生),長男(平成▲年▲月▲日生)及び二男(平成▲年▲月▲日生)があり,二男はH小学校に通っている。
(5) 本件営業許可処分
G株式会社は,平成21年8月10日,大阪府公安委員会に対し,風営法5条1項に基づいて,本件建物の1階の一部でぱちんこ屋の営業を行うことについての許可申請を行った(甲3)。大阪府公安委員会は,同年10月2日,G株式会社に対し,本件建物1階の一部分で風営法2条1項7号の営業を営むことを許可した(甲4,本件営業許可処分)。
4 争点
(1) 被控訴人らに原告適格が認められるか(本案前の争点)
(2) 被控訴人らの主張する違法事由は,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)10条1項による主張制限を受けるか(本案の争点その1)
(3) 本件営業許可処分について取消事由はあるか(本案の争点その2)
5 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(被控訴人らに原告適格が認められるか)について
ア 被控訴人ら
(ア) 被控訴人らの原告適格は,行訴法9条2項に規定されているとおり,風営法等の文言だけにとらわれるのではなく,風営法並びにその関係法令及び条例(以下「風営法及び関連法令」という。)の趣旨及び目的や,本件営業許可処分がされることにより制約される権利・利益の内容及び性質を実質的に検討して判断されるべきであるところ,以下のとおり,本件において被控訴人らには,本件店舗の周辺に居住する近隣住民としての原告適格あるいはH小学校に子らを通学させ,または通学させる予定である保護者としての原告適格がある。
(イ) 近隣住民としての原告適格について
風営法は,「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し,及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため,風俗営業及び性風俗関連特殊営業等について,営業時間,営業区域等を制限し,及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに,風俗営業の健全化に資するため,その業務の適正化を促進する等の措置を講ずること」を目的とし(同法1条),ぱちんこ屋の営業時間,照度,騒音,振動及び広告宣伝等について規制しているほか(同法13条ないし16条),条例による善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為を防止するために必要な制限をすることができるとする等(同法21条),営業所周辺における善良で清浄な風俗環境を確保するための規定を具体的に規定しているし,同法4条2項,風営法施行令6条1号イ,大阪府風営法施行条例2条1号によって,住居集合地域における営業所の設置自体を禁止している。これらの規定にかんがみれば,風営法及びその関係法令は,騒音・振動等を規制することにより,当該営業所の周辺に居住する近隣住民の静穏な生活環境を享受する権利を個別具体的な利益として保護しているといえる。なお,風営法施行令6条1号ロが距離制限対象施設の敷地の周囲おおむね100メートルの区域で営業所の設置を禁止しているのに対し,同号イは住居集合地域と営業所との距離を明示していないが,営業所が設置されることによって近隣住民が被る害悪と距離制限対象施設の被る害悪は異なるところはないから,同号イの地域も,同号ロとの均衡から,営業所からおおむね100メートルの範囲に居住する近隣住民の権利・利益を保護しているものと解すべきである(営業所の設置により被る近隣住民の被害の性質・程度は都市計画の区割りとは無関係であるし,現状として,都市計画法の区割りと実態とは必ずしも一致していないから,被控訴人らのうち,被控訴人B,同C,同D及び同Eの4名が近隣商業地域に居住していることは,被控訴人らの原告適格の判断に影響しない。)。被控訴人らの静穏な生活環境を享受する権利は,生活を営む上での最も基本的な権利であり,人格権(憲法13条)の一内容で重要であるところ,本件店舗でぱちんこ屋の営業をされると,本件店舗やその利用客が発する騒音が深夜に及ぶこと等によって,被控訴人らの権利が侵害されることになる。 被控訴人Aを除くその余の被控訴人らは,本件店舗から100メートルの範囲に居住しているため,原告適格が認められる。
(ウ) 保護者としての原告適格について
風営法4条2項2号,風営法施行令6条1号ロ,同条2号,大阪府風営法施行条例2条1項2号は,距離制限対象施設の敷地の周囲からおおむね100メートルの範囲内を営業制限地域とする旨定め,同範囲内における営業所の設置を禁止している。また,これら根拠法令は,風俗営業等について,営業時間,営業区域等を限定し,年少者を立ち入らせないようにしている。これら各規定は,教育施設の利用者たる児童(その保護者)が健全で静穏な風俗環境下で教育を受ける(受けさせる)権利を個別具体的に保護しているというべきである。被控訴人らは,いずれもH小学校に通う児童の保護者であることから,健全で静穏な風俗環境下で子女に教育を受けさせる権利を有しているといえ,原告適格を有する。
(エ) 関連する最高裁判例について
最高裁平成6年9月27日第三小法廷判決(裁判集民事173号111頁,以下「平成6年最判」という。)は,距離制限対象施設である医療機関の設置者が,風営法4条2項2号,風営法施行令6条2号及び神奈川県の風営法施行条例3条1項3号所定の距離制限違反を主張して風俗営業許可の取消しを主張した事案であるが,最高裁は,上記各根拠法令は,同号所定の診療所等の施設につき善良で静穏な環境の下で円滑に業務を運営するという利益をも保護していると判示した。したがって,風営法4条2項2号,風営法施行令6条2号の距離制限規定は,医療機関のみならず,同じく距離制限対象施設とされている文教施設において善良で静穏な環境の下で円滑に業務を運営するという利益をも保護していると解すべきである。そして,平成6年最判を演繹すれば,風営法は,文教施設利用者である児童生徒の保護者の利益も個別的に保護していると解される。
最高裁平成10年12月17日第一小法廷判決(民集52巻9号1821頁,以下「平成10年最判」という。)は,ぱちんこ屋の営業許可取消訴訟であるが,第一種低層住居専用地域に住む原告らの原告適格を否定した。しかし,平成10年最判の原告らは,近隣住民の静穏な生活環境を享受する権利のみを主張していた点で本件とは異なるし,平成16年に行訴法が改正されたことに伴い,平成10年最判判例変更される可能性が高い。したがって,平成10年最判を本件に適用すべきではない。
最高裁平成21年10月15日第一小法廷判決(民集63巻8号1711頁,以下「平成21年最判」という。)は,自転車競技法に基づき設置された場外車券発売施設の設置許可に関し,周辺住民について,その生活環境上の利益は個別的利益として保護されないとして原告適格を認めず,自転車競技法施行規則上のいわゆる位置基準を根拠として取消訴訟を提起する原告適格を有するのは,場外車券販売施設の設置,運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に文教施設または医療施設を開設する者に限られるとした。しかし,平成21年最判は行訴法9条2項の趣旨に反する特異な判決である上,自転車競技法及びその関連法令は,風営法及びその関連法令に比べて規定内容が不明確であり,騒音・振動等について個別的規制のある風営法とは異なるから,平成21年最判の判断手法を本件に持ち込むのは相当ではない。
d 平成10年最判と平成21年最判があるにもかかわらず,第一種低層住居専用地域内の住民や距離制限対象施設である文教施設利用者の保護者に原告適格を認めた下級審判決が相次いでいることは,平成10年最判と平成21年最判が変更されるべきであることを示している。
イ 控訴人
(ア) 近隣住民としての原告適格について
平成10年最判は,風営法4条2項2号について「良好な風俗環境の保全という公益的な見地から風俗営業の制限地域の指定を行うことを予定しているものと解されるのであって,同号自体が当該営業制限地域の居住者個々人の個別的利益をも保護することを目的としているものとは解し難い。」とした。このように,風営法4条2項2号は,近隣住民の個別的利益を保護する趣旨を含まず,近隣住民は処分取消訴訟についての原告適格を有しない。被控訴人らは,騒音規制等に関する規定が存することを処分取消に関する原告適格を基礎づける事情として主張するが,騒音規制違反等があれば,別途是正を図れば足りることであり,営業許可取消訴訟を提起させるまでの必要性はないから,これらを個別的利益保護に関する規定ということはできず,近隣住民に原告適格を認める理由とならない。しかも,被控訴人らのうち,本件店舗の近隣に居住している被控訴人A以外の4名の自宅は,いずれも営業制限地域に該当しない近隣商業地域に存し,この意味でも同人らに近隣住民としての原告適格は認められない。
(イ) 保護者としての原告適格について
平成10年最判は,風営法施行令6条1号ロ及び2号とこれを受けた東京都の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例による特定の施設の周囲おおむね100メートル以内の区域についての営業制限規定につき,「当該特定の施設の設置者の有する個別的利益を特に保護しようとするものと解され」「同号所定の施設につき善良で静穏な環境の下で円滑に業務をするという利益をも保護していると解すべきである。」とした。この規定による個別的利益保護の対象として原告適格を認められるのは,距離制限対象施設の設置者に限られる。善良で静穏な環境が害されることにより処分の取消まで求めるか否かの判断は施設設置者に委ねれば足り,不特定多数人であって間接的な利益を有するにすぎない距離制限対象施設の利用者にまで原告適格を認める必要はない。大阪府風営法施行条例は,距離制限対象施設を学校,各種学校及び保育所並びに病院及び診療所(いずれも入院施設を有するもの)と定めており,これらの施設の間に保護対象として何らの差異を設けていない。そうすると,病院または診療所に短期間通院する患者や,通学期間の短い生徒等も距離制限対象施設の利用者ということになるから,通学期間が長いこと等を根拠に,施設利用者に対して原告適格を認めるという判断方法は,風営法の保護する利益に関する解釈を誤っている。
(2) 争点(2)(被控訴人らの主張する違法事由は,行訴法10条1項による主張制限を受けるか)について
ア 控訴人
被控訴人らが騒音及び振動による損害を受けるおそれがあることを理由に原告適格を認められたとしても,被控訴人らは,風営法4条2項1号及び風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則(以下「風営法施行規則」という。)8条が営業許可の基準として規定する営業所の騒音及び振動に関する具体的な違法についての主張を一切行っておらず,本件店舗またはその関連施設がH小学校の敷地から100メートル以内に存することを違法事由として主張するにすぎない。かかる主張は,自己の法律上の利益に関係のない違法事由に関する主張として行訴法10条1項による制限を受ける。
イ 被控訴人ら
(ア) 行訴法10条1項は,取消訴訟原告適格が認められる者であっても,その者が違法事由を主張することに何ら法的利益が認められない場合(その者とは全く無関係の者を専ら保護するために定められた規定の違法事由を主張する場合)には,その違法事由の主張は制限される旨を確認的に規定したにすぎない。したがって,被控訴人らは,当該違法事由を主張することについて法的利益が認められる限り主張制限を受けず,原告適格を基礎付ける違法事由以外の違法事由も本案において主張しうるというべきである。仮にそうでないとしても,行訴法9条2項の趣旨にかんがみれば,違法な営業許可によって被る不利益の内容が原告適格を基礎付ける違法事由と関連する場合は,主張制限を受けないというべきである。
(イ) 風営法4条2項2号,風営法施行令6条1号ロ,大阪府風営法施行条例2条1項2号に違反した本件営業許可処分がされたことにより,風営法により保護された被控訴人ら近隣住民の平穏な生活を営む権利ないし利益が侵害された。距離制限違反に関する法的利益(距離制限対象施設において善良で静穏な環境の下で円滑に業務を遂行する利益)は,近隣住民の平穏な生活を営む権利と関連するから,距離制限違反に関する違法は,近隣住民であることを根拠としてのみ原告適格が認められる被控訴人らにとっても「自己の法律上の利益に関係のない違法」の主張ではない。
(3) 争点(3)(本件営業許可処分について取消事由はあるか)について
ア 被控訴人ら
(ア) ぱちんこ屋に関連する施設が「営業所」に当たるか否かの判断は,周辺の静穏,清浄な環境等を確保し,もって,周辺住民の具体的な生活環境や教育環境などを保護するという風営法の趣旨・目的を踏まえ,物理的・客観的に1個の建物であるか否かのほか,当該施設とぱちんこ屋との相互の近接性,機能的連続性,目的,営業の維持発展に及ぼす影響の程度,管理方法等を総合考慮して,一般人の社会通念上,風俗営業のため一体として機能していると評価することが相当であると認められるか否かで判断すべきである。本件では,以下の各施設が本件店舗の「営業所」に含まれるところ,以下の各施設はH小学校から100メートル以内に所在するから,本件営業許可処分は風営法4条2項2号,風営法施行令6条1号ロ,2号,大阪府風営法施行条例2条1項2号の定める距離制限に違反し,違法である。
(イ) 本件建物1階全体
物理的・客観的にみて一つの建物に客室・洗面所等の営業施設が所在しているのであれば,その建物は全体として一つの営業所というべきであるところ,本件建物1階全体は,一つの建物として構造計算や建築確認がされ,基礎も同一の建物の1階部分であり,外観上も連続した1つの建築物であるから,物理的にも客観的にも,1階全体が一つの建物であるし,本件建物内には本件店舗の客室・洗面所等の営業施設が存在しているから,本件建物の1階部分は,全体として,本件店舗の営業所である。
(ウ) 本件駐車場
本件駐車場は,本件建物から約5メートルの近接した位置にあり,本件駐車場には,本件店舗の専用駐車場である旨の看板が掲げられている。また,本件駐車場は本件店舗の営業に不可欠なものであるし,本件店舗を利用する客のうち相当数が車で来店し,本件駐車場を使用しており,警備員や客,従業員が,本件店舗の営業時間に行き交っている。これらのことからすると,本件駐車場は,本件店舗との距離が極めて近く,営業への寄与度も高く,管理者も同一であり,設置目的もぱちんこ屋の営業のためであるといえ,本件店舗と一体として機能・運営されているということができるから,営業所に該当する。
(エ) 本件景品交換所
本件景品交換所は,本件店舗の景品を現金に交換する業務を営んでおり,本件建物の1階部分に存し,本件店舗とは壁1枚で区切られているだけで隣接しているから,客観的・物理的に全体として1つの営業所とみるべきである。また,本件景品交換所は,本件店舗の客がぱちんこ屋で得た利益を換金等するためだけの目的で設置されているし,本件建物の外壁に設置された本件防犯カメラのうち一つは,本件景品交換所の出入り口を撮影できるよう設置されており,本件店舗事務所内で,同カメラが撮影した映像を確認できることとなっている。したがって,本件景品交換所は,本件店舗と同一主体が管理しているとみるべきである。
控訴人は,本件店舗と本件景品交換所の経営主体は異なると主張する。しかし,ぱちんこ屋が直接客に現金を渡さず,その代わりに特殊景品を出玉と交換し,客は特殊景品をぱちんこ屋とは経営主体の異なる景品交換所に持参して現金で買い取らせることにより現金化し,景品交換所は特殊景品をぱちんこ屋に戻すという「3店方式」は,賭博罪等の刑罰法規に違反しないように出玉を換金する目的で採用されている方式であるから,景品交換所の経営主体が形式的にはぱちんこ屋と異なる者とされているのは当然である。しかし,3店方式の目的にもかんがみれば,実態においてはぱちんこ屋と景品交換所は同一の経営者が運営していると評価すべきである。風営法上の営業所の範囲の解釈は,刑罰法規とは別に,風営法の趣旨・目的を踏まえて行われるべきであるから,経営主体が異なるとしても,上記の各点に鑑みれば,なお本件景品交換所が本件店舗の営業所に当たるということができる。したがって,本件景品交換所は風営法上の「営業所」に該当する。
(オ) 本件景品交換所周辺部分
別紙5の詳細図記載のコ,サ,シ,コを順次直線で結んだ範囲内の部分(以下「本件景品交換所周辺部分1」という。)及びカ,オ,エ,ウ,ケ,ク,カの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分(以下「本件景品交換所周辺部分2」といい,本件景品交換所周辺部分1と併せて「本件景品交換所周辺部分」という。)のうち,本件景品交換所周辺部分2は,本件建物内のマンション住民専用ごみ置き場として利用することとされているようであるが,実際に住民のごみ置き場として利用されている実態はない。また,本件景品交換所周辺部分2の外壁側は本件店舗が排出する事業系ごみの指定集積場として使用されていること,本件景品交換所周辺部分2の外壁には本件防犯カメラが設置されており,(エ)のとおり撮影された映像は本件店舗事務所内で確認できるようになっていること等,本件景品交換所周辺部分2の外側の利用実態が本件店舗の営業と密接に関連していることからすれば,その内側である本件景品交換所周辺部分についても,本件店舗の経営主体がぱちんこ営業のために専属的に使用していると推認できる。また,本件景品交換所周辺部分は,いずれも本件店舗と同じく本件建物内にあるから,物理的に一体であるといえる。したがって,本件景品交換所周辺部分は風営法上の「営業所」に該当する。
(カ) 本件建物敷地部分(及び自動販売機)
別紙5の詳細図記載ア,イ,ウ,オ,カ,キ,アの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下「本件建物敷地部分」という。)は,本件建物の2階以上に存するマンション住民が立ち入ることはほとんどなく,専ら,本件店舗の客が本件景品交換所に行き来する目的で立ち入っているから,本件店舗と機能的一体性を有する。また,本件建物敷地部分は本件店舗の敷地と接着しているから,本件店舗の営業と一体をなしているといえる。したがって,本件建物敷地部分は風営法上の「営業所」に該当する。また,本件建物敷地部分には,本件店舗の客を対象とした飲料の自動販売機が設置され,自動販売機横のゴミの回収は本件店舗の店員が行って(甲49の1〜3),本件店舗が運営管理している。このことは,本件建物敷地部分が本件店舗と一体性を有することを示すし,上記自動販売機は本件店舗の「営業所」の一部に該当する。
(キ) 本件更衣室
本件店舗の従業員は,毎日,勤務前及び勤務後に本件更衣室で着替えをしており,本件更衣室を利用しているのは本件店舗の従業員のみである。また,本件店舗と本件更衣室の管理者は本件店舗の営業主体ないし従業員であるから,管理上の一体性も認められる。したがって,本件更衣室は,本件店舗と社会通念上一体とみられる施設といえ,営業所に該当する。このことは,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準に,営業所とは,客室のほか,専ら当該営業の用に供する調理室,クローク,廊下,洗面所,従業員の更衣室等を構成する建物その他の施設のことをいう旨規定され,更衣室が列挙されていることからも明らかである。
イ 控訴人
(ア) 風営法の営業所の解釈は,憲法上保障された営業の自由に深く関わることから,営業所の範囲についてむやみに拡大解釈することは許されない。本件建物は,1階部分のうち一部がH小学校の敷地から計測して100メートルの範囲内にあるものの,本件建物内部には,この100メートルラインに沿って壁が設けられており,100メートルの範囲内と範囲外とが明確に区分され,100メートルの範囲外の部分のみが本件店舗とされている。したがって,当該壁の外側(西側)のみが風営法にいう「営業所」であるとみるべきであるし,被控訴人らが営業所と評価できる旨主張する各施設(被控訴人らの主張(イ)ないし(キ)の各施設)は,いずれも営業所とは評価できない。
(イ) 本件建物1階全体
本件店舗で客が主に使用する,遊技台等の存する客室や洗面所等の部分は,本件建物の内部に設置された壁によって,本件景品交換所等の部分とは明確に区分されているから,本件建物1階全体が営業所であるとは認められない。そして,本件店舗の客室や洗面所等の存する部分は,H小学校から100メートルを超えていることが明らかであるから,被控訴人らの主張は理由がない。被控訴人らの主張によれば,同一の建物に風営法の許認可の対象となるものとならないものとが混在する,いわゆる複合施設においても,当該複合施設の一部が教育施設等の距離制限の範囲内にあれば,当該複合施設内では風俗営業の許可を得ることができなくなり,憲法上保障された職業選択の自由の一つである営業の自由を著しく制限することになってしまう。したがって,被控訴人らの主張は,風営法の適用についてその解釈を誤ったものである。
(ウ) 本件駐車場
本件駐車場は,幅員4メートルの本件道路により本件店舗と隔てられた離れた場所にあり,本件店舗と構造上一体であるとは認められないから,風営法上の「営業所」とは評価できない。
(エ) 本件景品交換所
本件景品交換所の事業主体は一般財団法人Mであって,本件店舗の経営主体とは異なる。また,本件景品交換所は風営法の営業許可の対象ではないことをも踏まえると,本件景品交換所は風営法上の「営業所」には含まれない。仮に,被控訴人らが主張するように,本件店舗と本件景品交換所において特殊景品のやりとりがあったとしても,それは通常の商取引であると考えられ,何ら風営法の規制を受けるものではない。したがって,本件景品交換所は,風営法上の「営業所」とは評価できない。
(オ) 本件景品交換所周辺部分
本件景品交換所周辺部分は本件店舗の営業所として使用されていないから,被控訴人らの主張は理由がない。防犯カメラは,犯罪の予防等を目的として事業者が独自に設置するものであり,防犯カメラの設置自体は風営法の許可要件でもないので,本件防犯カメラの存在は,風営法上の規制とは関係がなく,本件景品交換所周辺部分を営業所と評価する根拠にはならないから,本件景品交換所周辺部分は営業所とはいえない。
(カ) 本件建物敷地部分(及び自動販売機)
本件建物の共同住宅部分の住民が本件建物敷地部分を利用しなかったとしても,そのことから直ちに本件建物敷地部分が営業所と評価され得るものではないし,本件店舗の従業員等がごみ収集のために一時的に本件店舗のごみを置くことをもって営業所に当たるともいえない。本件建物敷地部分に存する自動販売機の管理者は不明である上,道路に面して設置されており,本件店舗の客のみを対象としたものでないことは明らかである。したがって,自動販売機の存在を根拠に本件建物敷地部分が風営法上の「営業所」とみなされることはない。なお,自動販売機に関する被控訴人らの主張は,控訴審で新たに提出されたものであり,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
(キ) 本件更衣室
本件更衣室は,本件店舗から約30メートル離れた位置にあり,社会通念上,本件店舗と一体とは認められないので,営業所とはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被控訴人らに原告適格が認められるか(本案前の争点))について
(1) 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)(最高裁平成17年12月7日大法廷判決,民集59巻10号2645頁

上記の見地に立って,まず,被控訴人らが本件営業許可処分の取消しを求める原告適格を有するか否かについて検討する。
(2) 近隣住民としての原告適格について
風営法及び関連法令の規定について
(ア) 目的について
風営法は,善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し,及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため,風俗営業及び性風俗関連特殊営業等について,営業時間,営業区域等を制限し,及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに,風俗営業の健全化に資するため,その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることを目的としている(1条)。
(イ) 騒音・振動規制について
風営法4条2項1号は,公安委員会は,営業所の構造又は設備が風俗営業の種別に応じて国家公安委員会規則で定める技術上の基準に適合しないときは,営業許可をしてはならないと定め,これを受けた風営法施行規則8条は,風営法2条1項7号のぱちんこ屋営業について,風営法施行規則31条所定の騒音計及び計測方法により計測した騒音及び振動の数値が風営法15条の規定に基づく条例で定める数値に満たないように維持されるため必要な構造及び設備を有することを技術上の基準として定めている。風営法15条は,風俗営業者は,営業所周辺において,政令で定めるところにより,都道府県の条例で定める数値以上の騒音又は振動(人声その他その営業活動に伴う騒音又は振動に限る。)が生じないように,その営業を営まなければならないと定めている。これを受けた風営法施行令9条は,住居集合地域,商店の集合している地域,その他の地域等に地域を区分した上で,昼間,夜間,深夜の騒音規制値を定め,さらにこれを受けた大阪府風営法施行条例6条及び別表第1は,都市計画法上の地域区分に基づき,昼間,夜間,深夜の騒音規制値をそれぞれ具体的に定めている。なお,風営法は,風俗営業者等が風俗営業に関し法令若しくは風営法に基づく条例の規定に違反したときは,公安委員会において一定の要件の下に風俗営業許可を取り消し,あるいは6か月を超えない期間内で期間を定めて営業の全部または一部の停止を命ずることができる旨定めている(風営法26条)。
(ウ) 地域制限について
風営法4条2項2号は,営業所が,良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるときは,営業許可をしてはならないと定め,これを受けた風営法施行令6条と大阪府風営法施行条例2条1項1号は,都市計画法上の地域区分を基礎に,住居集合地域(住居専用地域及び住居地域(一部の例外を除く。))を営業制限地域とする旨の定めを置いている。
風営法及び関連法令は,前記ア(イ)のとおり,風俗営業に伴って発生する騒音及び振動について,その測定方法を含む具体的かつ詳細な規制を設けており,規制に違反した場合は営業許可をしてはならないこととし,営業許可後に規制に違反した場合には,事後的に風俗営業許可を取消しまたは停止することを可能としている。このことと,前記ア(ア)の風営法の目的及び(ウ)の営業制限地域に関する規定の内容を勘案すると,このような騒音・振動規制が設けられた趣旨は,風俗営業がその営業活動に伴い,人声,遊技器具から発生する騒音,営業所内で流される音楽その他の騒音又は振動を生じやすい類型のものであり,一定の基準に適合しない施設において風俗営業がされたときは,当該施設周辺の住民が騒音・振動によって静穏な生活を営む権利を侵害されることから,住民の静穏な生活を営む権利を確保する必要性の大きい住居集合地域における風俗営業を禁止するとともに,それ以外の地域においても,基準に適合しない騒音や振動を発生させる風俗営業施設の営業を禁止し,当該施設周辺の住民の静穏な生活を営む権利を保護しようとするものであると解される。そうすると,風営法及び関連法令の騒音・振動規制は,風俗営業施設の周辺に居住する住民の静穏な生活を営む権利を個別的利益として保護する趣旨をも含む規定であるというべきであるから,風俗営業施設の営業に伴い,基準を超えた騒音・振動の発生によって静穏な生活を害されるおそれのある地域に居住している者は,騒音・振動規制を根拠として風俗営業許可の取消しを求める原告適格を有すると解される。風俗営業施設の周辺に居住する住民が上記の原告適格を有するか否かについては,基準を超過する騒音・振動が発生した場合に被害が及ぶと予想される範囲を,風営法及び関連法令の他の規定をも斟酌して,主として当該住民の自宅と風俗営業施設の距離や位置関係を基礎に合理的に判断すべきところ,風営法及び関連法令は,各種学校及び入院施設を有する医療施設等の距離制限対象施設と風俗営業施設との間に設けることを必要とする距離について,商業地域においてはおおむね50メートル,その他の地域においてはおおむね100メートルと規制していることにもかんがみれば,風俗営業施設から50メートル以内に居住する住民は,地域を問うまでもなく,上記の原告適格を有すると解される
ウ 被控訴人らの原告適格
被控訴人らのうち,被控訴人B,同C,同D及び同Eは,前記第2の3の前提事実のとおり,いずれも本件店舗の周辺50メートル以内の場所に居住しているから,前記イの騒音・振動被害を受けず静穏に生活する権利に関する近隣住民としての原告適格を有する。一方,被控訴人Aの自宅は,本件店舗から数百メートル離れているから,上記の近隣住民としての原告適格は認められない。
(3) 保護者としての原告適格について
風営法及び関連法令の距離制限規定について
風営法4条2項2号,風営法施行令6条1号ロ及び2号,大阪府風営法施行条例2条1項2号は,①学校教育法1条に規定する学校(幼稚園,小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校,大学及び高等専門学校),②同法134条1項に規定する各種学校のうち主として外国人の幼児,児童,生徒等に対して教育を行うもの,③児童福祉法7条1項に規定する保育所,④患者を入院させるための施設を有する病院または診療所を距離制限対象施設と定め,商業地域では距離制限対象施設の敷地またはその用に供するものと決定した土地の周囲おおむね50メートル,その他の地域ではおおむね100メートルの区域を営業制限区域としている。
イ 距離制限規定の趣旨について
(ア) 上記アのとおり,風営法及び関連法令は,距離制限に関する規定において,教育施設については主として未成年者及びこれに準ずる未成熟子を対象とする学校教育施設に限定し,医療機関については入院施設を有するものに限定して距離制限対象施設と定めている。
また,距離制限対象施設の周辺において風俗営業施設の設置を制限する距離に関し,商業地域についてはその他の地域の半分であるおおむね50メートルと定めている。さらに,制限距離計測の始点については,距離制限対象施設の敷地及び距離制限対象施設の用に供するものと決定した土地の境界をその基準としている。
(イ) 上記(ア)のとおり,風営法及び関連法令は,距離制限対象施設から入院施設を有しない医療施設並びに未成年者及びこれに準ずる者等を対象としない社会人教育施設等を除外し,さらに,もともと繁華で喧噪を伴う地域である商業地域における制限距離をその他の地域の半分としている。このことからすれば,風営法及び関連法令の距離制限規定は,施設の内部において特に静穏さを必要とする特定の教育施設及び医療施設を保護の対象として,これら施設に風俗営業施設が一定の距離以上接近することを制限することにより,上記教育施設及び医療施設の施設内における善良で静穏な環境を保持し,良好な環境下で円滑に業務が運営されるようにすることを目的としていると解される。したがって,距離制限対象施設の設置者は,距離制限規定に違反して風俗営業が許可された場合には,当該許可処分の取消しを求める訴えを提起するにつき原告適格を有する(平成6年最判)。
(ウ) しかし,上記規定の趣旨,内容にかんがみれば,風営法及び関連法令が距離制限規定により達成しようとしているのは,あくまでも距離制限対象施設の施設内部における静穏さ等の利益に限られるのであって,その結果,反射的に当該施設に赴く途中の道路等についてもある程度静穏な環境と良好な風俗が維持されることとなるが,距離制限規定が距離制限対象施設の周辺地域における風俗・環境の維持をも直接の目的としているとは認められない。距離制限対象施設の利用者としては,医療施設の場合入院患者と通院患者,教育施設の場合は幼稚園児から大学生まで種々の者が想定できるが,通院患者のみを扱う医療機関風営法及び関連法令上距離制限対象施設とされていないことからすると,通院患者の利益は風営法及び関連法令上,反射的にせよ保護の対象とされていないことが明らかである。入院が数年以上の長期に及ぶことは比較的少なく,教育施設についてもその利用期間は数年から長くて6年程度であって,施設選択の自由もある程度は認められている。また,距離制限対象施設の施設内部において善良で静穏な環境の下で円滑に業務を運営する利益が害されたか否かを最も的確に判断できるのは当該施設の運営者である。以上からすれば,不特定多数者にすぎない距離制限対象施設の利用者は,風営法及び関連法令の距離制限規定について一般的公益に属する利益を有するにすぎず,風営法及び関連法令がこれを超えて各利用者の個別的利益を保護する趣旨までも含むと解することはできない。
そうすると,距離制限対象施設の利用者である児童及びその保護者は,距離制限違反を根拠として風俗営業許可の取消しを求める原告適格を有しないと解される。
(エ) 被控訴人らは,風営法が,風俗営業の営業時間,営業区域等を限定したり,年少者の立ち入りを禁じたりしていること等を理由に,風営法が教育施設の利用者たる児童及びその保護者に対して,健全な風俗環境下で教育を受ける権利をも個別的に保護していると主張する。しかしながら,これらの規制はいずれも風俗営業施設周辺の風紀等,広い意味での生活環境の保持という公益に属する利益を保護するものであって,これに違反した場合に生命・身体の安全や健康が害されるというものではないから,個別的利益保護の趣旨を含むとは解し難い。そして,前記(ウ)のとおり,距離制限規定が施設内部における静穏さ等の維持を目的とするものであると解されることにも照らせば,被控訴人らの主張は採用できない。
ウ 被控訴人らの原告適格
以上のとおり,距離制限対象施設の利用者は,距離制限違反を根拠として営業許可処分の取消しを求める原告適格を有しないから,被控訴人らについては,H小学校の児童の保護者であることを理由に原告適格を認めることはできない。
(4) 原告適格に関するまとめ
以上によれば,被控訴人らのうち,被控訴人B,同C,同D及び同Eは,騒音・振動被害を受けず静穏に生活する権利に関する近隣住民としての原告適格を有するが,距離制限規定に基づく原告適格はなく,被控訴人Aにはいずれの原告適格も認められない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人Aの本件訴えは不適法であるから,これを却下することとする。
2 争点(2)(被控訴人らの主張する違法事由は,行訴法10条1項による主張制限を受けるか(本案の争点その1))について
(1) 行訴法10条1項が,取消訴訟においては自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができないとしているのは,取消訴訟が行政庁による違法な公権力の行使による侵害から原告の権利利益を救済することを目的とする主観訴訟であることから,取消訴訟における違法事由の主張を原告の個人的利益に関係のある事項に限って認めることとし,これと関係のない事項の主張は許さないとの趣旨による。これは,取消訴訟について,法律上保護された利益,すなわち法律により個別的に保護された利益が侵害されることを要件に原告適格を認めるとの行訴法9条の規定に対応するものである。
(2) 被控訴人らが本件営業許可処分の違法性に関して主張する違法事由は,H小学校からの距離制限違反に関するものである。しかしながら,被控訴人B,同C,同D及び同Eらが本件営業許可処分の取消しを求める訴えについて原告適格を有するのは,前記争点(1)について判断したとおり,同人らが本件店舗について,風営法及び関連法令による規制を超える値の騒音・振動等の被害を受けないという具体的利益を有することによるのであって,本件店舗がH小学校から100メートルの範囲内に存するかという点は,上記原告適格の基礎となった騒音・振動被害の点とは関連性がない。したがって,本件において,上記4名の被控訴人らが距離制限違反に関する違法事由を主張することは,行訴法10条1項に違反して許されないから,距離制限違反に関する被控訴人らの主張は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
(3) なお,被控訴人らは,その陳述書等に,①本件店舗の客が路上で会話する声がうるさくて迷惑である,②本件店舗の電光看板がまぶしくて生活上不利益を被った,③本件店舗の客の中に変質者のような者がいた等の不利益を記載しているが,①の人声については,風営法及び関連法令上の規制を上回る騒音が発生したとの事実を認めるに足りない。また,風営法は,店舗内部の照度が不足して暗すぎる場合を規制しているが,上記②のような問題は規制の対象としておらず,③のような問題も規制の対象外である。したがって,被控訴人らが主張するこれらの不利益は,ぱちんこ屋の営業に伴う一般的な風俗環境の悪化であって,その設置・運営によって直ちに周辺住民の生命,身体の安全や健康が脅かされたり,その財産に著しい被害が生じたりするところまでも想定し難いところである。そして,このような生活環境に関する利益は,基本的に公益に属する利益というべきであって,法令に手掛りとなることが明らかな規定がないにもかかわらず,当然に,法が周辺住民等において上記のような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解するのは困難といわざるを得ないから,本件営業許可処分の取消事由となるものではない。
第4 結論
よって,被控訴人Aの本件訴えは不適法であるからこれを却下し,被控訴人B,同C,同D及び同Eの請求は,いずれも理由がないかららこれを棄却すべきところ,これと異なる原判決は失当であるからこれを取り消すこととし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 小島 浩
裁判官 大西嘉彦
裁判官 橋本都月